伊豆のあれこれ

美しい伊豆の情景と青年の苦悩との対比

物語は主人公である「私」が語る形式で綴られた私小説で、実際に川端自身が伊豆に旅した際の体験をもとに書かれています。現在の東京大学教養部にあたる旧制第一高等学校(旧制一高)に入学したものの、寮生活になじめず、気分転換の目的で伊豆への一人旅に出た20歳の主人公が当時は世間から蔑視された存在であった旅役者の一座と知り合い、その一座にいた14歳の少女との出逢いと別離の物語です。多感な年頃である主人公の心の動きが伊豆の情景描写とともに巧みに綴られています。

川端康成の文体は美しい風景を叙情的に描写されていることが特徴で、読者に主人公と同じ場所に立っているかのような錯覚を感じさせる卓越した文章表現力を持っています。『伊豆の踊子』は一部にはエリート学生が社会の底辺に生きる旅役者の少女に見せた同情心を感傷的に描いただけの小説という批判も発表当時にはあったようです。

しかし、インテリ階級に属するものの、自身の複雑な生い立ちによって傷付いていた青年の心が少女の純真な仕草と無邪気な言葉によって、次第に解きほぐれていくさまが背景となる伊豆地方の雄大な自然と共に見事に描写されており、この小説が現代においても読み継がれていることでも作品が持つ普遍的な価値が証明されています。[つぎへ]

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